今回は「「うつ」は食べ物が原因だった!」著者、溝口徹(みぞぐち とおる)の本の要約です。
導入文
厚生労働省が行った調査によると、ここ10年ほどで「うつ病・躁うつ病の総患者数」は倍以上にまで増えています。受診できていない人もカウントすると、もっと多いのが現状でしょう。では、なぜこんなにも増え続けているのでしょうか。そもそも、うつ病は処方薬を飲んだからといって改善が見込める病気ではありません。また、医師によっても処方する薬が違うため、どのクリニックや病院を受診するかでその後が決まると言っても過言ではありません。本書は、そんな厄介なうつ病を直すポイントとして、栄養学の観点から「オーソモレキュラー療法」について解説していきます。うっと密接なかかわりを持つ栄養や代謝のトラブルについて学んでみましょう!
本書の要点
1.「脳の栄養不足」による心の不調をオーソモレキュラー療法(栄養療法)で治す
2.「うつ」と腸内環境との関係を知ろう
3.血糖値の乱れによって、「うつ」が加速する可能性がある
解説
1.「脳の栄養不足」による心の不調をオーソモレキュラー療法(栄養療法)で治す
心はいったい何なのでしょうか。日本では古来より、心は胸やお腹にあると考えられてきました。実際はというと、脳内神経伝達物質のバランスが、精神状態に大きく影響することが知られています。つまり、幸せ、楽しいといった感情だけでなく、イライラ、不安、うつ症状などのメンタルトラブルも脳内の正常な機能が乱れていることが原因なのです。
ではの働きについてご説明します。
我々の脳は、興奮系、抑制系、調整系の三つの神経伝達物質がバランスを保っています。もっとも種類が豊富なのは、興奮系であるノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリン、グルタミン酸などの伝達物質です。興奮系が不足すると、元気がなくなったり、気分が落ち込んだりします。一方、抑制系の代表格はGABA(γ-アミノ酪酸)で、脳が興奮したときのブレーキ役として機能しています。これが不足すると、興奮が落ち着かず、ときにけいれんを起こすこともあります。
そして、これらの脳内神経伝達物質は、すべて食べ物由来で作られ、おもな原料はタンパク質ということをご存知でしょうか。食事でとったタンパク質は、消化管を移動しながら消化酵素で分解され、アミノ酸として脳に送られます。ただ、すべての脳内神経伝達物質が均等に作られるわけではありません。とくに、セロトニンは不足しがちな物質で、スムーズな睡眠に入れない人が多いのです。うつの初期症状は、セロトニン不足によって引き起こされると言っても過言ではありません。
そこで、筆者らが注目しているのが「オーソモレキュラー療法(栄養療法)」です。オーソモレキュラー療法とは、食事内容の変更、サプリメントによる栄養素摂取など、不足している栄養素を補充する治療法です。その目的は二つで、一つは「体内に本来備わっている物質を意図的にコントロールすること」、もう一つは「病気の改善に必要な材料を最適量とって、その後の回復は身体の代謝にゆだねること」です。つまり、体の中を分子レベルで治療し、心身の問題を改善させる考え方になります。近年では、子どもの発達障害も増えていますが、このような栄養学的アプローチをとることで、医薬品に頼らずとも健康なメンタルに近づけることが期待されています。
また、日常のストレスが蓄積すると、ビタミンB群が不足することが知られています。すると、集中力低下や不眠が生じて、仕事や勉強などに悪影響が出てきます。この原因をつぶすためにビタミンB群を摂取しようというのが、オーソモレキュラー療法です。
2.「うつ」と腸内環境との関係を知ろう
少し視点を変えて、脳のトラブルと腸の状態の関係性をご説明します。実際、うつ症状をもつ患者さんには、便秘や下痢といった腸の不調に悩んでいる人が多いと言われます。それは、自律神経の乱れから考察することができるのです。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、腸の働きは独立してコントロールされています。ただし、ストレス過多の環境において交感神経が活発化すると、興奮系伝達物質であるノルアドレナリンやアドレナリンが、自律神経の関わる腸の粘膜にも影響します。例えば、イライラするときには、腸の粘膜でノルアドレナリンやアドレナリンが過剰に分泌されています。すると、腸内細菌の働きが鈍くなって、便秘や下痢といった腸トラブルが生じるのです。
3.血糖値の乱れによって、「うつ」が加速する可能性がある
さて、脳と腸の関係がうつ症状と深い関係があることと同じくらい、糖質依存症も「うつ」を悪化させる要因の一つです。糖質依存症という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ここで重要なのは、キャンディーやチョコレートよりも、小麦を使用した甘いものの方が、より糖質の量が多いということです。小麦に含まれているグルテンは、脳内で依存症を引き起こす物質へと変化するため、クッキー、パン、ドーナッツ、パスタなどの小麦商品はうつ症状を作りやすいのです。
ここで、低血糖症についてもお話します。低血糖症とは、糖質から脂質へのエネルギー変換が上手く行われない状態によって生じる病気の総称です。通常、糖分を体に入れると血糖値がゆるやかに上昇し、上がった濃度を下げるためにインスリンが分泌され、血糖値は再び安定します。しかし、低血糖症の場合、食後に血糖値が急激に上昇するので、それを下げようとインスリンが大量に分泌されます。すると、血糖値が下がりすぎるのですが、それを再び上げるために新たにホルモンが放出されます。その結果、自律神経に乱れが生じて、体の不調へとつながってしまうのです。例えば、イライラ、疲労感、不安感といった精神面や、手足のしびれ、動悸、頭痛、筋肉のこわばり、眠くなりやすい、集中力の低下などの身体面でトラブルが発生します。
ただ、低血糖症には自覚症状がないものも多いので、自分の身体をよく観察することが必要です。血糖値を急激に上げないために、肉などのタンパク質源を最初に食べて、そのあとに野菜(食物繊維)、最後に糖質を少量食べるようにしましょう。いきなり糖質制限するのではなく、量を減らす、一食分の糖質を抜くなど、ご自身のレベルに合わせて調整してみてください。食べたらすぐ歩くなど、食後すぐの運動もおすすめです。
まとめ
今回は、脳内伝達物質がうつ症状を引き起こす原因になることをご紹介してきました。セロトニンなどの伝達物質は、食べ物由来で作られるため、不足しがちな栄養素を個人個人に合わせて摂取することは重要ですよね。イライラ、不安感、疲労感、不眠などの不調を感じている方は、日々の食生活を見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。食事を改善するだけで、仕事のモチベーションや勉強の効率が上がるだけでなく、毎日がより充実すると思います。本書には、ホルモンと脳ストレスの関係についても、医学的な詳しい説明がのっています。うつと栄養学についてもっと深く学びたい方は、ぜひ読んでみてくださいね。
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